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VS常翔学園「素人軍団が聖地・花園で3年間を懸けた戦い。荒ぶるへの夢の60分」

2016/11/16

お前たちと過ごした3年間、最高に熱かった。誇りに思う。全てを懸けてこのグランドで戦え。お前たちが努力で手にした夢の舞台。求めていた花園第一グランドだ。荒ぶれよ。荒ぶれよ。荒ぶれよ。お前たちは早稲田だ。早稲田なんだ。このジャージには、このジャージには歴代の先輩方の汗と涙と想いが詰まっているんだ。それを背負い戦え。早稲田ラグビーは一番でなければいけないんだ・・・・・
時計の針は12:30分を示した。さあ、キックオフの時間だ。


 
 
 
11月13日 早稲田摂陵高校ラグビー部にとって歴史的な1日だった。
平田組は夢の舞台で自分たちの3年間を懸けた。
 
『ラグビーの聖地知っているか?』『わかりません』
『ラグビーやらない?』『とりあえずやることないんで入ろうかな』
『辞めるの?』『勉強しないといけないし、痛いから辞めます』
 
幾多の出来事があった。特に高校から始めた選手はラグビーの厳しさに何度も心が折れかけていただろう。なんとなくで入部した男たち。ほとんどの選手が早稲田摂陵でラグビーをしようなんて思って入学したわけではない。そんな男たちが徐々にラグビーに、ワセダに魅了され、仲間に励まされ努力し続けた3年間。決して平坦な道程ではなかった。いや、むしろこのストーリーだからここまで成長できたのであろう。常に屈辱と喜びが隣り合わせだった3年間。当たり前のように全国大会、決勝戦など無縁の世界だった。全員が主役だったからがんばれたのだ。




 改めて記しておくが、我々の部活には推薦入学はなく、半分以上は未経験者だ。学校の方針が文武両道であり、19時までには学校を出なければいけない為、練習時間は2時間である。この決勝戦でも高校から始めた選手が6人先発した。それでもこのラガーマンの憧れである聖地・花園のグランドに立つことができた。激戦区この大阪で決勝戦まで出ることができたのだ。誰が何と言おうと彼らは与えられた環境と条件下で自分の限界の努力をした。明確な目標とプランニングをして。
 
決勝進出なんて無理
そんな素人ばかりのチームが決勝なんて聞いたことない
早稲田摂陵なんて知らない
 
何回もそのセリフを聞いた。聞かされた。目の前で言われた。それでもこのチームの可能性を信じていた男がいた。絶対に覆す。あの男の執念とラグビーに対する情熱、生徒に対する愛情、高校時代からワセダ一筋、17年間背負い戦い続けているDNAは早稲田摂陵高校ラグビー部をこの地まで導いた。

お前たちみたいなラグビーもしたことがない、肩書もない選手達が花園に立ってみろ。面白いだろ。他のチームやラガーマンに夢を与えられる。誰も期待していない、誰も早稲田摂陵が勝つなんて思っていないからこそロマンがある。必ずおれがお前たちを花園の舞台に立たせてやる

早稲田大学ラグビー部のコーチで日本一を経験している彼はそう言い続けてきた。
早稲田大学では3,4軍のチーフコーチをしており、中学生のスクールも担当していたことから育成には慣れていた。





 
激闘であった関大北陽戦で花園第一グランドに立つという目標が一つ達成された。3年間の努力が肯定されたのだ。だが、早稲田ラグビーにはもう一つの目標がある。
【荒ぶる】 
 優勝した代のみ歌うことが許される歌、【荒ぶる】
それを達成することが早稲田ラガーマンの夢である。

関大北陽戦が終わってからの一週間はとても早かった。初めての決勝戦であらゆることが未体験であった。決勝戦での戦術を考え、学校との応援交渉、チケット販売など多くのことがあった。
グランドではあらゆるパターンを想定した練習が行われ、前日を迎えた。



決勝戦の決意表明。寒空の中、多くの保護者とOBが集まり始まった決意表明。

【最高の仲間と最高の景色を見る為に死ぬまで走ります】
【夢だった花園のグランドで早稲田を体現したいと思います】
【ここまで引っ張ってくれた3年生に感謝して】
【これまで練習してきた3年間、そして自分の人生をすべてかけ、俺たちの3年間の方が最高に熱く激しい3年間だったと常翔に見せつけてやります】
【この部活に誘ってくれてありがとう。この仲間を信じて良かったと誰よりも思える僕が、誰よりも熱く花園の舞台で活躍してきます】
【平田組が史上最強であるということを証明するために花園第一グランドで常翔を倒し、荒ぶるを歌いたいと思います】
【明日の試合を勝つためだけに努力してきた3年間。いろんなものを犠牲にしてきたけど、この道を選んだことを正しいと証明するために、この代に夢を乗せてくれて先輩たちのために、そして出られない仲間のために明日は絶対勝って全国に行きたいと思います】
【3年間厳しいことを言い続けてきて、ずっと耐えられないと思っていた。でも今はこいつらのためなら俺はあのグランドで死ねる。その気持ちを常翔にぶつけたいと思います】
【3年間いろいろなことを乗り越えてきたこの仲間と花園に立てることを誇りに思い、この人生を懸けて早稲田のプライドを懸けて戦いたいと思います】

最後に主将の平田が
【早稲田摂陵ラグビー部に入部してこれまで最高に熱い3年間を過ごしてきました。厳しかった苦しかった3年間、それでも今ここでキャプテンとして決意表明ができているのは最高の仲間とマネージャー、コーチ、そして何より誰よりも熱かった最高の男一人、その男のおかげだと思います。その感謝と誇り、3年間のすべてを肯定する為に、そしてこの大好きなチームとその最高の男を本当の男にする為に、そして荒ぶるを勝ち取る為に花園第一グランドで死んできます】





前日の試合前練習は順調に進んだ。これまでで一番の集中力を持って。
最後の試合前ミーティング。
日本対南アフリカの映像を見た。マネージャー作成のPV、決勝戦のPVを見た。それだけでは終わらなかった。サプライズ映像があった。
歴代のOBからのビデオメッセージに加えて、早稲田大学ラグビー部出身のトップリーガーからビデオメッセージをもらった。
神戸製鋼、NEC、NTT、Canon、サントリー、コカコーラ、パナソニック、ヤマハ、遠征中の日本代表の選手たちにも。
そして最後のサプライズはヤマハ・清宮監督からのビデオメッセージであった。
チーム・早稲田としていろいろな人が協力して、応援してくれている。
明日の試合は早稲田の代表として誇りを持って戦う気持ちは固まった。



10時30分 ロッカーイン
寄せ書きに込められた一人一人の想いを感じ、25人は自分の気持ちをそれぞれの方法で作っていく。ドレスチェックが終わり、アップ場に移動した。
全部員の気持ちを一つにしていく。アップはこの1年間で最高だった。
最後に監督が

お前たちの3年間の全てをぶつけてこい。俺が受けてやる

と3年生のタックルすべてを受けた。泣きながらタックルに入る3年生を見て、保護者やOB、観ている人は涙した。全力を尽くす覚悟は決まった。




ロッカーアウトまで残り5分の声が響く。その瞬間、明るかったロッカールームから明かりは消え、真っ暗になった。そこでのコーチ陣の言葉は覚えていない。荒ぶる感情を全部員が抑えられないぐらい発狂し涙した。
第一グランドの入り口に立った。目の前にはたくさんのお客さんがいた。身震いした。緊張ではなく、こんなにも素晴らしい舞台で赤黒ジャージを身にまとった男たちが試合できることに。

 

応援席に挨拶に行くとたくさんの歓声をいただいた。この1週間、学校を挙げてラグビー部の応援に行くように生徒会が協力してくれていたのだ。早稲田摂陵高校にとって初めての取り組み。学校全体で応援してもらえる環境に部員一同、感謝した。普段から同じグランドで切磋琢磨している野球部やサッカー部なども応援に駆け付けてくれ、クラスメイトや部活動で忙しい生徒たちも観戦に来てくれた。本当に勇気づけられた。






聖地・花園に初めて『北風』が木霊し、キックオフの笛は吹かれた。

その瞬間ドッとスタジアムが沸き上がり、心臓の高鳴りが止まらなかった。周りの選手の心臓の音が隣で聞こえてくるようだった。3年間努力し夢を懸けた60分間のスタート・・・・・・





 


キックオフ直後に常翔学園が牙を剥く。早稲田摂陵も先輩方から受け継いできたタックルに命を懸けて前に出る。しかし、常翔学園のATは止まらない。一人、二人とトップスピードで入っても倒れない身体の強さ。前半2分にオフロードパスを繋がれ、トライラインを奪われた。



初めての花園、そして決勝戦。緊張していないと言えば嘘になるだろうが、常翔学園の一人一人の強さにDFの人数を割かれ、そして何よりも素晴らしい追い上げによるオフロードパスで次々とゴールラインを明け渡した。その伝統とプレーは素晴らしい歴史と選手を輩出してきた。大阪工大高から常翔学園に名前を変えてもその伝統の系譜を継承している。我々も何とか流れを持ってきたい所で、前半の15分に常翔学園の選手をWTB藤家が激しいタックルで外に押し出す。





そこで得た、ラインアウトからこの日の為に用意してきたサインプレーをチョイス。ラインアウトのボールをクリーンキャッチすると9-10-12-15と繋ぎ、前原がラインブレイクで独走状態に。FBと1対1の状態から内側からサポートしてきたのはSHに転向してから1年半の前川。楕円球を前原から託された前川は全部員の想いを背負い、最後はWTBのバッキングをかわし、ゴール中央にトライ。今年1番のトライであり、花園での初トライ。







計算通りのATは彼らが努力してきた賜物。全員で奪ったトライであった。その瞬間の光景は誰も忘れないだろう。ベンチの部員は抱き合い、観客席にいた在校生、保護者、OBと分かち合った喜びと感動を。一つでもタイミングが乱れたら止められていたAT。この大舞台でやってのけたのだ。
毎日のグランドで
『このグランドがお前たちにとって花園第一グランドなんだ。このグランドで出来ないことはあのグランドでは出来ない』と言われ続けてきた。




 
しかし、トライをとられても常翔学園の選手は落ち着き、簡単にトライを奪っていく。選手の経験値と実力ともに明らかに上だった。
ハーフタイム。得点は7-43
主将の平田が熱くなって言った。『俺らワセダやろ。こんなにもたくさんの人が応援に来てくれているんやで。やらないと。もっと戦わないと』
 
 後半になっても戦況は変わらない。変えさせてくれなかった。何回か裏に抜けるも、そのブレイクダウンを出させてくれない。一方で常翔学園は裏に抜けると何人もの選手が湧いてきてあっさりとトライを奪い続けた。
それでも最後までゲームを諦めなかったのはたくさんの人たちへの日頃の感謝と応援に来てくれた人々の為だった。
 



跳ね返されても、跳ね返されても。抜かれても、はじかれても必死に食らいつく。3年間練習してきたことをすべて出す。一人が無理なら二人、二人が無理なら三人とタックルに入る。自分たちがみんなで作り上げてきたチーム。主役は全員。

最後にもらったペナルティー。
彼らのチョイスはスクラムだった。3年間コーチの下で作り上げ、こだわってきたスクラム。それを常翔学園相手にチョイスする彼らに心は揺さぶられた。大事なのはこだわりとプライド。
そのボールをBKに供給し必死に攻めたが、常翔学園の分厚いDFに阻まれた。
ゴールラインは遠かった。
そして、花園第一グランドに響き渡ったノーサイドの笛。7-69.
平田組の『荒ぶる』を懸けた戦いに終了を告げた。その場で倒れこむ赤黒戦士達。本気でチャレンジしても届かなかった夢の全国大会。本当に常翔学園は強かった。

 


表彰式でも涙する主将の平田。本気で挑戦したからこその涙だろう。全力を尽くしても届かないこともあった。それでも努力してこの舞台に立ったことは否定されない。
努力って大切だよ。この大阪の地で君たちのような選手たちが勝ち上がってきたのはまさに努力したから。

勝つことのみが善である

早稲田大学、そして日本代表の名監督であった宿沢さんの言葉。早稲田ラグビーの伝統。負けられないことがワセダをこれまで強くしてきた。大学と同じ教えを3年間立派に継承した君たちは胸を張って生きればいい。そんな文化を初めは理解できなかっただろう。でも、負けたら悔しいだろ?そこでどうするかがなんでも試される。そこで自分たちに勝った君たちの姿勢と文化は周りの人の意識も心も変えた。岩澤先生が書いた文章がある。 

勝利至上主義。それがすべてだろうか。勝つことが一番ではない。その過程に意味があって、最後に届かなかったこと、辿り着けなかったことを決して否定してはいけない。4月にみんなと出会ったとき、そのことを伝えたかった。今もそう思っている。思っているけれども少し違う。先週の「死闘」を経て、その先の「景色」を見て、強く感じたことがある。

 「勝利を絶対としない努力は、心震えるような人生を与えてはくれない。」

 ワセダラグビーが、いつの世も観る人を魅了し続けてきた理由が、やっと少しずつ、わかりかけてきた。そのシンプルなアイデンティティに4年間も身を置きながら、なんだか遠回りをしてしまった。と同時に、すぐ隣に、みんなの前に、誰よりも真っ直ぐに熱く、そのワセダイズムを継承してきた人がいたことに、改めて気付かされる。
 眠りに就こうとするきみの耳元で、高らかに鳴り響く目覚ましの声。3年間、ずっときみたちを叩き起こし続けてきたその怒号。延々と繰り返されるスヌーズ機能。打ち壊す?電池を抜く?伝統と信頼の「MADE IN WASEDA」の秒針を狂わせようとあがいた格闘の日々?気づけばいつからかその時計と同じリズムを刻むようになっていたきみたちの鼓動。これが最後のアラームかも知れない。「勝利を掴め」と鐘を打つ。満身創痍でも。疲労困憊でも。その人の下に、奮い起たなかったら男じゃないだろう。



 
ワセダの名を背負い戦うということはあくなき勝利への執念を持つこと。負けが許されない世界に足を踏み入れたということ。勝負の世界では勝ち負けが最も大事である。勝つ可能性を追求する中であらゆる壁にぶつかるし、努力をするのだ。だからこれからもこだわり続けなければいけない。それが我々ワセダのアイデンティティー。

 




そして、1人で見る夢よりみんなで見る夢は素晴らしい。一人では何もできなかっただろうし、こんなにも悩まなかった。嬉しさも悲しさも分かち合うことはなかった。一人ではできなかった努力もこの仲間がいたからできた。戦っているのは自分のためだけじゃなかったから。そして何よりも自分の為に戦う以上にこの仲間を守るために戦うラグビーは男としては最高のスポーツだ。ラグビーは最高のスポーツなんだ。
問われていた
『何の為に戦うのか』
『誰の為に戦うのか』
『俺たちは誰だ』
理解したと思う。守るべきものがあるとき男は命を懸けて戦わなければならない。
それを理解し本気でチャレンジした60分。3年間。
最後にそれがわかればいいんだ。それより前は純粋に勝ちか負けだけを追えばいい。

 
試合後にはたくさんの学校の友達が待っていてくれた。
『感動したよ』
そう言ってもらえた。君たちのプレーは負けたけどたくさんの人の心に届いたのだ。人に影響を与えることができた。3年間の努力を周りの友達や保護者、OBは知っている。
学校を動かし、早稲田摂陵としての【誇り】をみんなで共有できた。自分たちだけでなく人を巻き込み物事を進めていくとき、そこにもっとも大事なのは『熱』である。
熱は人に伝わる。ただ、冷めた熱も伝わる。どちらの熱を一人の人間としてこれからも周りに与えられるのか。

夢の舞台・花園第一グランド
その景色は一生忘れることはないだろう。そこで得た経験は何事にも代えられない。しかし、それで満足していては男として二流である。次の世界に飛び込んだ時、同じように熱く、夢を持ち、そして周りの仲間と輝ける努力をしろ。きっとこの経験をした平田組ならできるだろう。

 

最後に・・・・・・・・
いつも選手たちにスポットがあたるが、平田組を語る上で外せないのはマネージャーの二人。
選手たちをいつも支えてきてくれた丸山と三部。君たちがいなければこの舞台には立っていなかった。それぐらいたくさんの仕事とサポートをしてくれた。選手とマネージャーの仲が良く、どこにいくのも一緒だった二人。人を支え、夢を託すのはとても大変なことであり、君たちが裏方で導いた花園第一グランド。つらいこともあったと思う。それでも続けてくれて本当にありがとう。最高のマネージャーだった。
 


試合後には祝賀会が開かれた。歴代のOBが集い、現役選手、保護者との素晴らしい交流会となった。
早稲田大学の校歌にこのような歌詞がある。

集まり散じて人は変われど、仰ぐは同じき理想の光
 
たくさんの人たちと見た夢の景色。卒業しても戻ってくるOB達。毎年新入生が入部し、卒業する中で、見ている理想の光は同じである。これがワセダなんだ。

ここまで立派に戦い、新たな歴史の扉を開いた平田組。ありがとう。
このクラブは最高だったか?この仲間と過ごした3年間は最高だったか?
友達を大切にしろ。そして夢を持ち、熱く生きろ。一人で見る夢よりみんなでみる夢を選んで生きていけ。今度はOBとしてまたグランドで。


応援してくださった皆様へ
今日の試合にはたくさんのクラスメイト、在校生、OB、保護者、ワセダラグビーファンの皆様から勇気をもらいました。たくさんの応援に感動し、最高の60分間を過ごすことができました。試合結果はご覧のとおり完敗でしたが、自分たちが信じてきた道を最後まで貫き通しました。これからも早稲田摂陵高校ラグビー部を宜しくお願いいたします。ありがとうございました。