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準々決勝 VS布施工科【最高の仲間と挑む荒ぶるへの一歩】

2016/11/01

10月30日 準々決勝 VS布施工科高校

【歩んできた道のりの証明】

春の大会から6ヶ月が経ち、迎えた平田組最後の大会、花園予選開幕。
初戦というのは非常に難しい試合である。特にこの大阪という場所ではシード校を食う下剋上が起きやすい環境にある。それが最も確率が高いのが準々決勝。
リーグ戦を突破し勢いつけたチームが待ち構えるシード校は戦々恐々。打倒シード校を掲げて攻めてくる相手に受けて回れば、60分という時間の中では立場が逆転することはしばしばある。高校生となればなおさら。
公式戦という独特の緊張感と伝統校である布施工科高校との対戦という2つの要素から早稲田摂陵の選手からは緊張感が伝わってきた。しかし、それは乗り越えなければならないことであり、お互い同じような緊張感と不安感を持っているのである。それを打破することができるのは普段の練習をいかに大事にしているかどうか。
そして誰の為に戦い、何の為に戦うのか。
3年間ラグビー部で問われていることである。


誰かの為に・・・・・
そんな【誰かの為に】が平田組にはある。3年間共に戦ってきた仲間である松永が夏合宿の怪我で出場が難しい状況であった。しかしリハビリの成果と医者の許可もあり、数分だけであれば出場可能という条件付きが出た。彼の努力を3年間見てきた周りの部員は、彼がどれほどがんばってきたかをよく理解していた。怪我の多い3年間であったが、その遅れを取り戻すべくグランドに残り、自主練習していた日々や周りについていけずグランドの片隅で泣いていた日々。それでも彼は3年間の自分を表現するために、そしてワセダラグビーの誇りを守るために腐ることなくフィジカルを鍛え、置かれている立場で全力を尽くし自分自身と戦い続けた。そんな彼と一緒にラグビーがしたい。赤黒を着て勝利を味わいたい。周りからもそして松永からもその決意を感じ、最後の赤黒ジャージ25番を背負うことになった。前日の決意表明では【松永のために戦う】【松永と過ごした3年間を肯定したいと思います】とのセリフが3年生からたくさんあり、3年生の目には涙が溢れた。
そんな松永の決意表明の番。注がれる視線の先で松永は真っ直ぐと前を見つめ、語り出した。
【3年間を、自分自身を仲間と一緒に1分一秒表現したいと思います】

彼が試合に出られる時間は限られている。そして、その時間を得ることができるかどうかは周りの選手たちにかかっている。




12時20分 キックオフ
開始早々から布施工科高校の徹底されたコーチングとそれを信じて実行する選手たちの意思の強さにチームとしてのまとまりと熱を感じた。戦術を遂行する力は間違いなく鍛え抜かれた強いチームであることは明白で選手は脅威を感じてプレーしていただろう。
我々の選手に油断はないが、精神がすり減らされる公式戦で選手のプレーぶりをみて、相手に押されていることは明らか。
相手は2試合戦い勝ち上がり、公式戦慣れした状態での試合。我々は堅いプレーに終始した結果、ゲームは動かなかった。動かせなかった。
動くための大胆さと覚悟がなかった。大事な試合であるから仕方ない部分もあるが、自分たちから仕掛けず受けに回ればおのずと相手が意図した展開になるもの。相手の術中にはまり前半の中盤にあげたトライのみで、前半を7−0で折り返す。
気の抜けない試合であり、ハーフタイムではその重要なポイントを落とさないようにコーチ、そしてリーダーから檄が飛んだ。



後半開始3分。
展開から裏のスペースにボールを転がし、トライ。12−0
しかしそのあとは、一転して布施工科高校ペース。同じように裏のスペースに蹴られたボールが相手の胸に収まり、12−7
後半10分
ジワリと迫ってくる相手に早稲田摂陵の選手は焦りを感じたに違いない。そのあと、反則からゴール前に攻められ、BKに展開され角度でトライを奪われた。キックは外れ12−12

試合は再び振り出しに戻った。
あとこのメンバーで試合ができる時間は20分しかない。そんな緊迫した場面で発揮されるのは日々のグランドでの過ごし方と意地。コーチ陣は固唾を飲んで戦況を見つめた。あとは選手を信じるしかなかった。

後半15分
相手が反則を犯し、ゴール前のチャンスからモールを押し込み、19−12
次のポイントがゲームの勝敗を分けることを全部員が理解していた。突き放すか、追いつかれるか。マッチポイント。
そのチャンスを仕留めたのは早稲田摂陵であった。
数分後、ゴール前に迫ったところで立て続けにFWが押し込み26−12
さらにスクラムからトライで33−12




試合時間は残り5分。
グランドの脇には背番号25の姿があった。ついに松永にとって3年間の努力を見せる時間。与えられた時間は5分。3年間でたったの5分は彼の努力の評価では不十分であることは誰もが理解していた。しかし、その5分はグランドにいる選手たちが何とか松永の為に戦った5分なのである。それは言葉に表さなくても部員全員の誰もが理解できていたこと。松永も。
松永が出場するとその周りには共に戦ってきた3年生たちが集う。これが本当に素晴らしい瞬間であった。苦楽を共にした3年間は何か語らずとも感じる思いは一緒。
試合出場してからベンチからは松永への声援が飛び交う。彼が一度ボールを持てばベンチにいる3年生、そしてピッチにいる3年生、そして保護者の視線と声援を集めた。
痛いはずの身体で何度もボールを持ちゲインラインを突破した。痛くても身体を張り続ける姿に他の部員にもその熱と想いが伝わり、最後の1プレーで全部員でトライを奪った。





そしてノーサイドの笛。
本当に苦しかった。布施工科高校さんの想いが詰まったタックルやプレーは本当に素晴らしく、我々に何度も厳しさを叩きつけていた。それでも我々の心が最後まで折れなかったのは3年生の結束力だろう。

松永はこの試合を何の為に戦ったのだろうか。誰の為に戦ったのだろうか。その気持ちは彼にしかわからない。ただ、誰かのために戦った平田組3年生のノーサイド後はこの3年間で一番の笑顔だったことは間違いない。

平田組。その選手たちの心には試合に勝ったと同時に最高の仲間との時間を手に入れた。
ラグビーは上手い下手じゃないよな。本当に強い男たちはその悲しみや痛みに寄り添い、そして共に歩んでいくことを選んでいく。それが人を成長させ、チームを成長させる。誰かのために戦う。言葉にして初めて相手に伝わること。想いは表現してこそ責任が生まれ、相手に伝わる。不器用な男たちが最後の大会で見せた仲間への想いと覚悟。



試合後の円陣では異例ではあるが、松永からの一言があった。
「平尾組、二ノ丸組、そして平田組。そんな中でも平田組が大好きです。次の試合は出ることはできないけど絶対に勝つと思ってるから。みんなで花園にいこう」
その曇り一点ない純情な感情、透き通るような想いに全部員の魂は揺さぶられ、熱いものが込み上げてきた。お前がいるから俺たちがいる。お前ががんばっているから俺も頑張れる。そんな関係がすべての選手の想いを一つのボールに伝えられる。託す側と託される側。その関係こそがお互いを成長させ、責任と信頼を生み出すのである。

松永にとってケガが多く満足いく3年間ではなかったかもしれない。しかし、辞めることなくその責任と3年生の背中を見せ続け、最後の大会まで試合出場を諦めない彼の姿は早稲田摂陵高校ラグビー部にこれからも語り継がれる存在となった。そして歴代の先輩から受け継がれている3年生の姿を松永が示し、全部員に勇気と団結を生みだした。


対戦相手である布施工科高校さんからは多くのことを学び、我々にとってとても勉強になる試合でした。本当にありがとうございました。布施工科高校の分までその重みを背負い、次の試合に向かいたいと思います。素晴らしいグランドで試合をさせていただいた近大附属高校の皆様、ありがとうございました。

OB、保護者、学校関係者の皆様
応援本当にありがとうございました。次の試合の応援もよろしくお願い致します。

次戦は11月6日 VS関大北陽  12:30キックオフ @摂津高校

ついに迎えた準決勝の舞台。
5月8日 俺たちの胸に深く刻み込まれた敗戦の二文字。絶望の淵まで追い込まれ、目の前が真っ暗になった。あれから6ヶ月。我々の目の前に立ちはだかるのは再び関大北陽。あの1プレー、届かなかった1m先の世界を見るために。あの悔しさを1秒たりとも忘れたことはない。素晴らしい試合ができるよう全力を尽くします。