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VS大阪桐蔭「人生を懸けた60分間。二ノ丸組が走り続けた旅の終焉」

2015/11/13

13時40分
ノーサイドの笛が鳴った。今日もまた、花園は雨だった。
空を見上げ、頬をつたってグランドに落ちたものがすべてを表していた。

11月8日、二ノ丸組の3年間走り続けた旅は、終わりを告げた。
全力を尽くしても尚、大阪桐蔭の壁は厚かった。全国屈指の名門の壁はとてつもなく大きく、「二ノ丸ワセダ」に立ちふさがった。
それでもこの3年間、彼らが全力で追い求めてきた姿勢は観ている人の心を動かしたに違いない。





初めてみる楕円球に興味を示し、なんとなく入ったラグビー部でこんなにも熱い3年間を送ることなど、入学したての2年前の4月には到底イメージできなかったことだ。
素人と経験者が努力する構図は、早稲田大学ラグビー部に似ている。推薦組と一般組、その世界観が我々にはさまざまな化学反応を起こさせる。経験者は素人を引き上げ、時には厳しく、そして優しく未経験者を3年間でこの舞台に連れてきた。素人もまた、経験者には負けたくないという一心で、この3年間歯を食いしばりながら経験者に負けずに走り続けた。その文化こそが早稲田摂陵を引き上げ、この準決勝の舞台まで到達させた。真島組、熊澤組、津志田組、平尾組から受け継いできている素人と経験者の融合である。
この準決勝にも6人の未経験者からのスタート組が出場し、60分間戦い抜いた。

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この3年間で幾度となく歩みを止めようとした。それでも歩みを止めなかったのは、ラグビーの魅力と見渡せば最高の仲間、自分を表現できる場所を見つけたから。
順風満帆だとは思えない高校ラグビー生活。
史上最弱だとOBから思われていた男たちは、春の総体で早稲田摂陵史上最高の7位、そこからさらに上昇と描いていたパズルは、9月には一度崩れ落ちた。波風立たない組織は順調で居心地が良いだろう、だが我々のような組織では安定や順風では上がっていけない。時として思い描いた景色とは異なることもあるが、紆余曲折を経てさまざま経験を積んだ男たちは強い。そこには覚悟が生まれるからである。3年生としての背中を見せた二ノ丸組は素晴らしく、敬意を表したい。
 
大阪桐蔭戦までの1週間、試合当日のアップまであっという間であった。
前日の決意表明と試合前練習は、この1年間で最高に熱かった。戦いに向かう男たちの言葉がグランドに響き渡る。一人一人の言葉には選ばれた選手としての責任感が含まれていた。そんな中、3年生すべての選手から発せられた「井上のために」という言葉。3年生からは止めようにも止めることができない涙が流れる。試合に出ることの喜びと、同時に井上が出ることができないという事実が胸に突き刺さる。
人の気持ちを背負い戦うことの大切さ。人に思いを託す。人生を熱く生きるとはこのような状況がどれだけあるかであろう。背負い戦うことの誇りと幸せ、責任、あらゆる感情がグランドには充満する中、3年生としてメンバーに入ることができなかった井上の決意表明の番が回ってきた。本来ならば決意表明はジャージをもらったメンバーが決意表明を行う場であるが、彼の3年間の素晴らしい努力と人柄に敬意を表し、彼にも特別にその場が与えられた。その言葉にみな涙した。
最後に主将・二ノ丸が決意を述べ、北風を歌い最高の試合前練習を行った。



 
寄せ書きには
「この仲間と来週もラグビーがしたい」
「月曜日またグランドで」
 と書かれていた。


負けることはこの仲間との時間を失うことになる。そのことが背後から迫るたびに熱いものが込み上げ、胸が締め付けられる。そのことに気づくのは3年生のこの時期になってからだが、すでに1年生のときから刻々とノーサイドの笛は近づいてくる。寄せ書きに書かれたメッセージを真剣に読む選ばれた25人から、緊張という言葉はなくなり、自分とともに戦っている仲間がいることにより、安心感が生まれた。
 
当日の3年生の顔には何も迷いも恐れもなく、メンタルもコンディションも整っていた。3年間の答えがでる試合に選ばれた喜びと責任、誇りを理解した表情であった。アップで3年生から放たれる勝負に挑む男たちのオーラに、下級生も何かを感じ取り、継承していかなければならないことを学んだ。「熱」が充満し、試合前の円陣では三年生から自然と涙がこぼれた。その顔を見た下級生たちも涙し、コーチ陣からの言葉を聞いた。男たちが人前で涙を流し、泣きながらグランドに出られるスポーツ。その涙の意味は本人たちしか知る由がないが、きつい練習を乗り越えた先に見えた世界なのだろう。泣きたくてなくわけでなく、自然と溢れるのである。
そんな異様な世界観を見た下級生は、ワセダラグビーとは何か、3年生の生き様を感じ取ったに違いない。
最後に聖地・花園で北風を歌い、戦いに挑むモチベーションは高まった。


 
「二ノ丸ワセダ」が追い求めてきた60分間のキックオフ。
我々の平均体重90kgのFWがはるかに小さく見える大阪桐蔭のFWは、試合開始から早稲田摂陵にダメージを与え続けた。一人一人が強く、早稲田摂陵は2人、3人と襲い掛かった。一気に大きく崩されるシーンはそれほどなかったが、それでもゴール前まで迫ってくるところに大阪桐蔭の素晴らしさはある。つまり、すべての基本レベルが高い。いつのまにか、そしていつまでも自陣に張り付けられる。それこそが王者の強さと身体をぶつけ合いながら悟った。
それでも、早稲田摂陵は勇敢に挑んだ。ワセダに伝わるタックルというDNAは、前半から大阪桐蔭にも発揮された。
「タックルは上手い下手では決まらない。守りたいものがあるかどうかで決まる」
その気持ちがいつも以上に赤黒戦士たちを高みに連れて行った。




セットプレーでも我慢を重ね、同じ土俵で勝負することができた。前半のラインアウト獲得率は早稲田摂陵が75%、大阪桐蔭が50%の数字にも表れていたように、ゲームを引き締めるポイントとなった。ラグビーはセットプレーが大切である。挑戦者が戦う上でセットプレーの安定は欠かせないことは前回の淀川工科戦で学び、この1週間で十分に修正した点であった。セットプレーの安定がチームに勇気を与え「熱」を生み出した。。

そんな中、我々が一瞬のスキを見せたシーンで大阪桐蔭は牙を剥いた。マークからクイックリスタート・・・・・そのとき、グランドにいる15人のリアクションは明らかに遅れていた。それを見るや、一気にトライラインまで走りきられた。大阪桐蔭の一人一人の判断力の高さはもちろん、全国選抜大会3位のチームは流石であった。ゴールも決まり0-7
そのあとも一人ひとりの能力が高い大阪桐蔭にFWサイドを大きく破られ、BKに展開され、続けざまにトライを奪われる。0-14


ここから一気に崩壊してしまうのかと思われたが、それでも集中力を保ったのは、Waterboyとして参加した3年・井上が近くで仲間を鼓舞し続けたからだ。試合には出ることができなくても共に戦っている姿を見れば、痛さや怖さなど感じなかった。それよりも走らなければならない、みっともないプレーはできない、責任感のないプレーはできないという気持ちが強くなった。まさに井上の「熱」が1つのボールに伝わり、ピッチの15人を奮い立たせていたのだ。
 我慢に我慢を重ね前半を0-14で終えた。ハーフタイムでの選手の顔はまだまだ気持ちが折れていない表情であった。
 


後半が始まり膠着状態が続いた。
時計の針が10分を迎えたとき、反則によりゴール前に攻め込まれた。この試合の早稲摂陵の反則は8、大阪桐蔭は0。「反則」が勝負の分かれ目であったことは間違いないだろう。どのような反則、どの地域、その起点は何だったのかを理解すれば、それが勝負を決定づけた。チャレンジャーがしてはいけないことの一つに「反則」が挙げられる。エディー・ジョーンズコーチもその点を重要視していたように、今のラグビーで反則を2回すればスコアされる。とりわけハーフラインを越えてからの反則はスコアへの致命的な原因になる。
我々が反則をした理由は二つの見方を持たなければならない。その1つは、大阪桐蔭の強さが関係する。いつも以上にゲインラインを突破され、わずかな気持ちの焦りで判断力のスピードを奪われ、圧力を受け反則を犯した。大阪桐蔭の反則が0だったというのは、強さの秘訣でもあるだろう。
いかに自陣ゴール前で大阪桐蔭のラインアウト機会を作らせないかは大切なことであった。前半は一度しかなかった自陣ゴール前ラインアウトだが、後半は3本作られすべてを得点に結びつけられた。大阪桐蔭のモールはまとまりとテクニックがあり、素晴らしかった。



終盤に差し掛かったころ、何とか1トライでも奪おうと猛攻を見せた。実に18フェイズを重ねたが、最後までトライラインは遠かった。それが我々と大阪桐蔭の差であり、埋めていかなければならないことでもある。近くて遠い背中をこれから追いかけていくために。
 
そして、グランドに3年間のノーサイドの笛が鳴り響いた。我慢していた感情が爆発したのはベンチに戻ってから。多くの者が泣き崩れ、花園第二グランドに降り注ぐ雨と共に多くの涙が流れた。
ロッカールームでもその光景は続いた。
3年生から熱い言葉が下級生に送られ、それを涙を流しながら受け取った下級生たち。
夢の続きはたしかに後輩に受け継がれた。

最終スコア0−38。三年間の努力で埋められなかった差。何が足りなかったのか、どうすれば良いのか。後輩たちは見つけなければならない。 

「もう、負けはいらない」


今年1年、二ノ丸組を応援していただきありがとうございました。たくさんの方々の応援がチームの力になりました。
これからも早稲田摂陵高校ラグビー部を宜しくお願い致します。