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VS浪速高校 「手に汗握る攻防戦。運命を分けたのは・・・・・・」

2015/04/19

試合終了の笛が鳴り響いた時、涙ながらに両手を天に突き上げ、抱き合った赤黒戦士。
それほどまでに追い込まれ欲しかった一勝。懸けていた一戦。
 
「すべてを懸ける。」
「3年間のすべてを。」
「今日勝てなければ自分たちの3年間は終わってしまう。」


 
この一週間、グランドには二ノ丸組始まって以来の緊張感が流れていた。ミスに厳しく、1本に厳しく、一人一人がそれぞれの責任を果たす姿勢があった。それでもどこかで、春の大会で負けたとしても秋の大会がある。相手が格上だから難しい。そんな気持ちが前日のミーティング前まで流れていた。しかし、その甘いわずかな気持ちすら消し去ったミーティングの《言葉と映像》。目頭が熱くなるような言葉と映像に誰もが理解したはずだ。この試合の重要性に。準備はすべて完了した。最後の大会のようなミーティングであった。
 
相手は格上の浪速高校。新人戦の結果で我々が大敗した大阪朝鮮高校に負けはしたものの、素晴らしい試合を展開、失点数もわずか30点台と強力なDFを誇っていた。
我々チャレンジャーとして求められるのは、ある領域のメンタルを超えること。
究極的な想い、絶体絶命の雰囲気、これこそが今のワセダには必要であり、この1試合は二ノ丸ワセダの3年間を決める試合になると部員全員が認識していた。1つのミス、1プレー、1点の重要性を練習中から意識して挑んだ試合。
試合時間が遅れるというハプニングにも今日の早稲田摂陵は動じない。そんなことで動揺するような気持ちでこのグランドに来たわけではないから。人生を懸けて戦うために来たのだ。
遅れた試合時間に合わせるようにアップを開始し、メンタルレベルを上げていった。
このアップで最高の状態に持っていかなければ絶対に勝てない。何度もハドルを組み、全員の気持ちを整えた。


 
そうして迎えたキックオフ。
先制点が最重要であると認識して挑んだ試合。気合いが空回りなのか、焦りなのか、ゲームが始まって自陣に貼り付けられたところで、あっさりとゴールラインを明け渡した。0−7
いくつかのゲームのポイントを押さえなければこうなると理解しなければならない。浪速高校の集中力の高さは流石であった。素早い攻撃から順目に展開されなす術なかった。
そのあと、迎えたビックチャンスでは痛恨のノッコン。しばらく中盤での攻防が続くと、相手がミスしたところで、ラインアウトモールからFWがなだれ込み、トライ。キックは外れる。5−7。

一本返せたことは精神的に安定をもたらしたシーンだった。次の1本を先に浪速高校に取られていたら今のワセダにはなかなか取り返す精神力はなかっただろうから。
互いにミスからの失点であり、先にミスしたほうが、自陣に貼り付けられスコアをされる展開であるゲーム様相であった。
そうした中で最初にペナルティ−を犯し、そのボールをタッチに出されてラインアウトDFから失点した。ゲームの流れを読み、冷静にプレーすることが求められたはずだったがその反則をトライに繋げる強さが浪速高校にはあった。7−12。

前半は浪速ペースで進み、自陣のゴール前にいる時間が長かったが、なんとか前半最後のプレーをタッチに蹴り出し、前半を終了した。
リードされた展開で嫌な雰囲気も流れたが、ハーフタイムでは二ノ丸主将を中心に修正点を言い合い、最後にこの試合の意味を全員が共有して後半を迎えた。
 
後半開始早々、相手が反則を犯し敵陣で得たラインアウトからFWがトライ。キックも決まり逆転に成功する。14−12。


 
後半の先制点を得たことで精神的に優位に運ぶことができた。
立て続けにチャンスをつかみ、FW・BKでインゴールに流れ込み19−12。
さらに集中力を切らさず、敵陣に侵入するとスコアをして帰る展開で26−12。
試合前に話した敵陣に入った数だけスコアしなければ勝てないということを全員が認識し、強い気持ちで攻撃した結果であった。
しかし、後半の途中で一瞬のミスから一気に切り返され簡単にゴール中央にトライをされる。さすがは新人戦決勝進出チームの集中力と強さ。ゴールも決まり。26−19
時計の針が残り10分を示したところから魔の時間帯が訪れる。経験したことのない緊張感と追いかけられる立場で明らかに得点を守ろうとして消極的なプレーを連発。
勝利を意識してか、それとも精神的な疲れか、相手にミスから切り返され
残り時間5分を切ったところでさらに相手BKにトライをされる。万事休すかと思われたがキックはかろうじて外れ26−24。首の皮一枚つながった。引き分けならばシード決定戦には進めないのは早稲田摂陵。
 
ここからの時間帯は5分とは到底思えないぐらい長い長い時間であった。1ペナルティーで逆転されてしまう局面。流れは完全に浪速高校ペースであった。相手の押し寄せる攻撃をギリギリのタックルでしのぐ。意地と意地のぶつかり合いの中で生まれるお互いの最高のプレー。抜かれそうな場面でも指一本を伸ばして飛びつくその姿は、歴代のOBの気持ちが乗り移ったかのようであった。今までの試合では諦め走れなかったシーンでも、このゲームに懸ける想いと、周りを見渡せば仲間が戦っている映像が入ってくれば、痛かった身体中も自然と動き出し、夢中でボールを追いかけていた。赤黒ジャージにはすべてのOBの想いが詰まっていることが改めて感じられるシーンであった。OBの気持ちを背負い戦うことがワセダらしさを継承する一歩。
 
継承すること、この試合に懸ける想いの強さがあったからこその意地のタックル。今までの二ノ丸組なら接戦を落としていたにちがいない。だけれどもこの試合展開はこの1週間の準備の想定通り。タイトなゲームで1点を争うことは全部員がわかっていた。いかにしてこの逆境を楽しめるか、超えられるだけの熱を持てるか、超越できるか、そこに(ワセダ)はいるのか?この3文字を強く思い戦った試合。
 
最後の相手の攻撃
抜かれそうになったシーンで主将の二ノ丸が飛びついてギリギリでタックルする。
そこに交代出場した3年の大田がブレイクダウンにチャレンジして、ノットリリース・ザ・ボールを奪った。
この瞬間、すべての選手が拳を突き上げ勝利を確信した。3年生の中には涙していた者もいた。




 
それほどまでにこの1週間、追い込まれた精神状態であった。自分たちのストーリーは終わってしまうのか、自らの手でその続きを引き寄せることができるかのチャレンジ。
彼らはそのチャレンジに勝った。3年生の意地。
追い込まれ、己の人生を懸けるとき本当の自分が試される。
生き様。
どのような経験をしてきたか。
どのような環境と仲間がいたか。
歴史とロッカールームがあるか。
歌があるか?

「ワセダ」が人を育てる3年間。
それが伝統になり、力に必ずなる。
観ている人にもこの試合に懸ける想いが伝わった。
まさに、気持ちでもぎ取った一勝であった。この勝利はただの1勝ではない。大きな壁とプレッシャーにチャレンジして得た仲間との最高の瞬間だった。戦った選手達、それを応援したベンチ、新たに入部してくる1年生、OB、保護者、すべてが一体となって喜び、ノーサイドの笛を聴いた。
 わずかな差が勝敗を分けた。今回は我々のほうが運がよかっただけ。
次回対戦すれば、その結果はわからない。
実力は浪速高校に間違いなくあった。だからこそ、これからも愚直に練習していかなければならない。
この日、すべてを懸けて戦いに挑んだ部員の顔には最高の笑顔があった。