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VS天王寺高校 『最初で最後の赤黒ジャージを身にまとった男の覚悟と決意。51人全員で目指した勝利』

2013/09/27

9月22日
VS天王寺高校

大阪でもっとも歴史と伝統のある天王寺高校。全国大会にも何度も出場した経験を持つ古豪。
我々、ワセダとしても絶対に負けられない特別な試合であった。



グランドにはワセダが一つにまとまる出来事があった。

1年生のときにドクターストップを受けた間瀬が25番の赤黒を背負って最初で最後の公式戦に出場したのだ。
間瀬は中学生のとき兵庫県選抜と輝かしい経歴を持って、早稲田摂陵に入学。彼の未来は明るいものだと誰もが確信していた。しかし、病院に検査に行くとラグビーのような激しいスポーツはしないほうがいいと言われ、彼は部活を辞めようか悩んでいた。そんな彼を仲間たちが『間瀬を残せるように主務みたいな仕事ありませんか』と言ってきたのだ。仲間の説得や彼自身が早稲田摂陵ラグビー部が好き、同期が好きで残りたいということで、初めてではあるが早稲田摂陵ラグビー部1代目の主務に就任した。1代目というのは語弊があるかもしれない。この先、主務というポジションがあるかはわからない。正直なところ、主務というのは高校生のチームではマネージャーもいるし必要ないと思っていた。(この3年間の仕事ぶりを見れば、その考えを覆されることになったのは言うまでもないが・・・・)



そして、この試合のゲームキャプテンに任命されたのはNo8・中西。偶然ではなく必然だったのだろう。これが津志田組の運命。
彼をこの日のゲームキャプテンにしたのには理由がある。主将、副将と不在の中、ゲームキャプテンをこの2試合誰にしようか迷っていた。1試合目でも良かったが、2試合目にしたのには理由があるのだ。
中西、上野、そして間瀬は同じラグビースクール出身。間瀬が早稲田摂陵に行くなら、俺もそこに行きたいと思った仲。つまり、この6年間同じ時間を共にして来たお互い分かり合った関係なのである。
そんな3人のバックグラウンドを考えれば、彼を二試合目のゲームキャプテンにすることを決めた。

間瀬を出すことは当日の朝まで彼にも伝えていなかった。そもそも、出すことを反対していたいうのもある。彼は主務の道を選び、彼を入れることで試合に出場できない部員がいることはチームにはマイナスではないかという懸念があった。
今回は合宿中ということもあり、当日の朝に試合前練習と決意表明の儀式を行った。
メンバー発表の24番までが終わり、25番で間瀬の名前が呼ばれた。
そして、彼の決意表明の番が回って来た。

『最初の時しかラグビーは出来ませんでしたが、こうやって機会をもらえることにみんなに感謝して試合に出たいと思います』

溢れ出る感情と涙を抑えることができない間瀬の姿はこれまでの彼の苦しみやラグビーをしたいという想いが出て来たのだろう。
試合に出れるのは当たり前ではなくて、出たくても出れない選手がたくさんいる。だからこそ、出ている選手には責任があるということだ。それを理解し背負っていける選手は強い。そして、ワセダはお互いを認め合い切磋琢磨し合った仲間の分まで理解できているからこそ、成り立っていると確信している。


 
 
最後にゲームキャプテンの中西が決意表明を行った。
『なんとしても間瀬をこの試合に出場させるために身体を張ってきます』
 
普段から多くを語らない中西から出た渾身の言葉。短い決意表明、だけどそのなかには想像できないぐらい強い決意と覚悟、そして間瀬への愛情が込められた言葉であった。胸に秘められた熱い感情が揺さぶられるとはこのことだろう。誰かの想いを背負っていけることの幸せと誰かの為に何かを成し遂げる決意を述べることができる男。そんな男こそが真の『漢』だろう。ラグビーは全人格を懸けた戦いなのである。人の痛みや人の弱さを認め、それをカバーすることがラグビーでは学べる。ラグビーって痛いからこそ、きついからこそ、本当の姿が現れるスポーツである。
信頼される為には自分の身体を犠牲にしてでも、一つのボールに魂を込める。
そんな言葉が込められた中西の言葉はありきたりな言葉かもしれないが、実に深い言葉であった。


 
 
 
 試合会場に到着するといつものようにスケジュールや部のマネジメントをする間瀬の姿があった。
ジャージをもらったからといって、舞い上がることなく主務としての仕事をこなす彼を見て、一人の漢として成長している姿を感じた。
 
13時半  KICK OFF
 
前半開始早々に1トライを挙げるが、そのあとは天王寺のプレッシャーにミスを連発し、ゲームが停滞する。ひたむきなタックルやチームとしてのまとまりを非常に感じる統率されたDFにゲームは動かなかった。前半はこの後、2トライして19-0で折り返したが、崩したトライはなく緊張した空気が流れる。
ハーフタイムで各コーチから指示があるが、それはシンプルそのもの。

『点を取らなければ、このままでは間瀬の出番はないということ』


 
後半も厳しいDFとプレッシャーに上手く行かない場面が多い。だが、徐々に点数を重ねて迎えた後半25分。グランドサイドに25番を背負った間瀬の姿が現れると、大歓声。

『お前の3年間を表現してこい。最初で最後だけど、おまえらしさを出して楽しめ』

と固い握手をしてグランドに送り出す。



グランド脇から聞こえる大歓声を彼はどのように受け取り、心に刻んだのだろうか?グランドにいる選手はその瞬間の光景をどのように感じ取ったのだろうか?ベンチで見ている仲間たちはどんな感情になったのか?

一つだけわかっていること。それはすべての人間が間瀬という男の存在を認め、切磋琢磨し合った仲間として応援したということ。そして、一つのボールに魂を込めたということ。そこには雲一つない澄み切った空のような純粋な気持ちで。
5分間という時間が彼に与えられるべき3年間の正当な時間だったかどうかはわからない。だが、彼はその時間で自分を精一杯表現していた。そんな彼をグランドにいる14人は感じ取り、整列では彼にキャプテン代行として号令をかけさせるという粋な計らいをさせた。それが偶然なのか誰かが彼にそうさせたのか定かではないが、それもまた絵になる光景だった。

結果は55-5。

早稲田摂陵にとっては、勝利とともに間瀬の出場を勝ち取ったことが大きかった。すべての出来事には意味がある。我々が出会ったこともワセダラグビーをしていることも。


 
 
 
藤森コーチ

天王寺高校は素晴らしいスピリッツを持ってDFしてきました。我々にとっても非常に勉強になった試合ですし、素晴らしい相手と試合が出来て良かったと思います。間瀬の出場は当日の朝まで悩んでいましたが、前日の結果も踏まえて、決断しました。決意表明では彼の3年間の想いが伝わってきました。他の部員の決意表明はまとまっていなくて、ちょっと恥ずかしいですね。しっかりと考えて、決意表明してほしいですし、もっと堂々と言わないといつも内容も同じです。たくさんあると思うんですよね。まずは人の想いを背負うことの意味や感謝の気持ち、そして試合への抱負など。それがまとまっていない。
試合の内容は苦しいゲームだったと思いますが、DFは良かったと思います。身体を張るということに関して言えば合格点。でも、彼らは自分たちのDFがダメなのは理解しています。今のままでは次の常翔には通じないことも。本当の意味での厳しさがまだまだ足りないと思います。一瞬でも気を緩めてはいけない。
間瀬の出場は最初は考えてなかったのですが、出してほしいとの声がたくさんあったので。全部員が勝ち取った間瀬の出場ですね。
他の部員はあんな声援聞いたことないと言っていましたけどね。それぐらい彼の仕事ぶりをみなさんが理解しているということでしょう。中西がゲームキャプテンというのも彼の電撃復帰に花を添えたと思います。ラグビーの仲間は一生の仲間。津志田組の語る思い出が一つ増えたということで良かったかな。
間瀬は試合から帰って来た後は、仕事が不十分で怒られていましたけどね・・・・・
次の相手は日本一のチーム。準備をしっかりしたいと思います!